地元産の小麦を付加価値に、
新たな産業を創造。
さいたま市、農業専門家、株式会社氷川ブリュワリーさま他市内事業者
/見沼田んぼの休耕地を活用した地元小麦生産の復活と、
小麦を使用した6次産業創造プロジェクト
PROJECT OVERVIEW
地域に新たな産業やビジネスモデルを創出することを目指す武蔵野銀行。「地元の特産品やお土産を増やしたい」「田んぼの休耕地を活用したい」「付加価値のある製品を開発・販売したい」という、官・民の課題を解決するために、地元のストーリーに基づく農産物を探し、新たな製品を開発することを発案。かつて、さいたま市が一大生産地であった小麦を、見沼地区の休耕地を利用して生産し、さまざまな食品に加工するプロジェクトを始動した。銀行が農業に取り組むという、大胆なアイディアの結末は?!
Person Concerned
主なプロジェクト関係者
農業生産者・地元企業
(製造・加工・販売・流通)
6次産業による地域での新たな産業・
ビジネスモデル創出
プロジェクト
による農商工のビジネスマッチング
Issue
課 題
農業と製造業、販売業を結び付け、
さいたま市に新たな産業を
「地域サポート部農業担当の主な役割は、農業を営まれている方の支援や異業種から農業に参入しようというお客さまのサポートです。コロナ禍で食に対する意識が高まっていることもあり、生産者と加工業者を結び付けるビジネスマッチングのニーズも高まっています」。所属する部門の業務を、坂上はこう説明する。本プロジェクトは、「さいたま市に本店を置く銀行として、さいたま市に新たな産業を創造しよう」という、銀行としてのビジョンが根底にあった。「製品に地域ならではの付加価値を付けられれば、製造業のお客さまにとってメリットがありますし、地方公共団体からも、『市内には、お土産になるものもが少ない』と相談を受けていたのです」。
そこで、地域ならではのストーリーを持つ農作物を調べてみると、“小麦”が候補にあがってきた。「さいたま市見沼区には、“朝まんじゅうに昼うどん”という文化があって、小麦の生産が盛んだった頃は、農家さんでは、朝はまんじゅう、昼はうどんに加工して食べるのが一般的だったそうです」。また、地元の氷川神社の御祭神は、須佐之男命(スサノオノミコト)であり、小麦と関係あることもわかったという。
「地元で生産した小麦を使って、付加価値のある製品を作ろう」。坂上たちはこれを、「見沼田んぼ小麦6次産業創造プロジェクト」と名付けた。「6次産業は、1次産業(農業)×2次産業(製造・加工業)×3次産業(販売・流通)=6次産業という意味です。狭義では、生産者が加工も販売もする意味で使われますが、農商工連携の意味でも使われます。私たちは、主に農商工のビジネスマッチングを念頭に置いています」。
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Solution
Cooperate
連携と解決
銀行員が小麦を育てる?!
お客さまや市を巻き込んだ
研究会発足
プロジェクトを始動させるにあたって、武蔵野銀行がオーガナイザーとなり、農業関連事業者、さいたま市、さいたま市産業創造財団、飲食業・製造業のお客さま、武蔵野銀行からなる研究会を発足させた。「事業者として、うどん、パン、菓子など、小麦を使う約20社が参加し、どのような製品が開発可能かを検討しました。市や財団とは、耕作地選定や作業面、地域の事業者情報を共有させていただきました」。
坂上は、関係者や関係機関のとりまとめの他、休耕地の活用を念頭に小麦の栽培地を探し、種まきや収穫の実作業、作付面積や作付け品種の相談、対応も行った。「実は、農業経営アドバイザーの資格を取得しています。営業店の法人担当だった頃、農業をしているお客さまの話がよく理解できなくて、歯がゆい思いをしたものですから」。日常の管理は農家に依頼したものの、種まきや収穫、麦踏みといった実作業は、自分たち行員が汗を流すことにこだわった。「生産委託しているだけ、にはしたくなかったからです。初めての収穫は、2016年の6月。黄金色の小麦を、自分たちで刈ったときは、感動しました」。収穫にはメンバー企業や自治体も参加して、イベントとして話題を呼んだ。収穫した小麦は、製造業・飲食業のお客さまに配布され、さまざまな試作品が作られた。
「小麦は、タンパク質グルテンの含有量によって、もちもち感が違ってくるのですが、中力粉でうどんを作ったら粉っぽかったとか、強力粉で作ったパンは膨らみづらいとか、クッキーは美味しくできたとか、さまざまな意見が出されました」。それを基に小麦の品質を改良し作った製品を県内のイベントで販売したり、配布したりと可能性を探っていった。
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Achievement
成 果
見沼産の小麦を使ったビール
『さいたま育ちWheat』誕生
しかし、大きな壁があった。小麦が少量生産ゆえに、市場平均と比較して、大幅なコスト高となってしまうことだった。「パンや菓子、麺類といった単価の低い製品に使うことは難しいとわかり、プロジェクトは暗礁に乗り上げました」。
そんなとき、営業店の渡邊が担当する氷川ブリュワリーから、『小麦を使ったビールを作ってみたい』と、財団を通じて打診があった。日本の一般的なビールは大麦が原料だが、海外では、小麦を使ったウィートビールも飲まれているのだ。「氷川ブリュワリーさまは、私たちと一緒に見沼田んぼで小麦の生産にも参加してくださいました。そして見沼田んぼの小麦を使った『さいたま育ちWheat』というビールが出来上がりました。とても飲みやすい美味しいビールで、試飲会に報道機関を招いて披露したところ、新聞やSNSで広まり、あっという間に完売してしまいました」。地元ブランドや地産地消を意識した飲食店からの問い合わせも増え、同社の事業も好調である。そして、「武蔵野銀行が何か面白いことをやっている」と、認知されるようにもなった。
実はこのプロジェクト、行員のボトムアップによる案件だ。「当行は、『こんな取り組みをすれば、面白いんじゃないか』というアイディアの必要性を経営層にしっかり説明できれば、現場主導で任せてもらえる行風です」。
今後も参加プレイヤーを増やして、製品の種類を増やしていきたいと考えている。地域に新たな産業を創出するために、坂上のトライ&エラーは続いていく。
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VOICE
お客さまの声
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地元の方々とつながりができる、
意味のあるプロジェクト私が2013年にさいたま市の「ニュービジネス大賞」をいただいて、そのビジネスコンテストに武蔵野銀行さんも関わっていらっしゃったのが、ご縁の始まりです。そして、地元の企業の皆さんと武蔵野銀行さんが、見沼田んぼ小麦6次産業創造プロジェクトの会議を当店(氷川ブリュワリー)で行っており、とても意味のあるプロジェクトだと話を聞いておりました。そして、当社もクラフトビールメーカーとして製造できる体制が整い、2019年にプロジェクトに参加。種まき、麦踏み、稲刈りを武蔵野銀行さんと共に行い、収穫した小麦を使ったビールを製造しました。一般の方は不思議がります。「なぜ、銀行が6次産業をやるのか」と。しかし、1次、2次、3次産業があるから6次産業へ広がりがあるわけで、それが地元の活性化につながっていく。意味のあるプロジェクトだと思います。いつか、当社のクラフトビールを楽しみながら地元の食材でバーベキューをやれる道の駅のような施設をさいたま市につくりたいと、武蔵野銀行さんと夢を語り合っています。
VOICE
当行関係者の声
- 渡邊 駿平法人営業(2011年入行)
氷川ブリュワリーさまと当行のお付き合いは、創業時のご融資をお手伝いさせていただいて以来ですので、銀行全体として想い入れのある企業です。現在は、少量生産ながら質の高いクラフトビールで人気を博されていて、地元さいたま市の観光やお土産としても一役買われています。将来的には、規模の大きな施設を造る夢もお持ちで、その際には、土地を探したり、具体的な事業計画を立てて製造設備を入れたり、ご協力させていただきたいと思っています。また、さいたま市内の飲食店など、当行にはさまざまなお客さまとのネットワークがありますので、ビジネスマッチングでご紹介ができますし、「社長の想いに賛同していだだける方を集めていきたいですね」というお話をしています。地元愛の強い企業ですので、「一緒に地域を盛り上げる活動を続けていきましょう」といろいろなお話をさせていただいております。